弁護事件例

2016.06.17 【薬物事件】覚せい剤密輸

覚せい剤の知情性を上告審まで争ったが、懲役8年となった事件

裁判員
否認

事案の紹介

依頼者(南アフリカ在住の女性)は、スーツケースに隠匿された覚せい剤(約1kg)を日本に密輸したとして起訴された。依頼者は、娘に日本旅行をプレゼントされて来日したのであり、覚せい剤が隠されていることを知らなかったと主張したが有罪となった。

弁護活動

国選弁護人として担当しました。

依頼者は、逮捕された当時70歳近い年齢であり、弁護人との受け答えにおいても、認知症を疑わせる記憶障害などが見受けられました。そこで、弁護人は、裁判所に鑑定請求を申立て、それが採用されました。鑑定の結果、依頼者は軽度認知障害に罹患していることが判明しました。
証拠によれば、依頼者を来日させた娘は、密輸組織の人間と関わっており、認知症の母親を利用して本件を行ったことが疑われました。弁護人は、出発前の生活状況を知る依頼者の家族の陳述書やSNSのやりとりなどの証拠を請求し、依頼者が、娘にだまされて事情を知らないまま来日した可能性が高いことを主張しました。
しかし、判決では、依頼者が認知症に罹患しており、健常者よりも判断力が劣っていたことは認めつつ、結論としては覚せい剤の知情性(故意)を認めて、有罪判決を下しました。

依頼者は、高等裁判所に控訴し、弁護人は引き続き控訴審でも国選弁護人となりました。控訴審では、認知症に関する再鑑定が実施されるなど、かなり踏み込んだ審理が行われ、審理期間も1年半に及びました。
しかし、判決は控訴棄却となりました。

依頼者は、最高裁判所に上告し、弁護人は、上告審でも国選弁護人となりました。最高裁判所の判例等に言及し、第一審及び控訴審の事実認定が誤っていることを主張しましたが、結論は変わらず、上告は棄却されました。