刑事弁護人の選び方弁護士が選ぶ弁護士

「弁護士はどうやって刑事弁護人を選ぶのか?」

例えば,医師でも自分が病気になれば信頼できる専門の医師や病院を探さなければなりません。
同じように,弁護士も「信頼できる刑事弁護人」を探さなければならない状況はあります。

自分では対応できない遠隔地の知人や顧客から,刑事弁護人を紹介してほしいと頼まれることは珍しくありません。そもそも弁護士の中には自分では刑事事件は全く扱わないという人も多くいます。そのような場合,法律のプロである弁護士は,どうやって信頼できる弁護士を選ぶでしょうか。

自分の大切な友人や顧客が直面した人生の重大な局面を託すことができる弁護士とはどのような弁護士でしょうか。このような観点から,弁護士が考える刑事弁護人の選び方を紹介します。

point.1

インターネットだけで
刑事弁護人を選ぶのは危険

弁護士が刑事弁護人を選ぶときに,「インターネットで検索順位の高い事務所に依頼しよう」と考えることはまずありません。広告宣伝のうまい事務所が,刑事弁護の実力がある事務所とは限らないことを,弁護士は職務上の経験から当然に知っているからです。

インターネット上で,取り扱った事件の件数を掲げて「多数の実績」があることを大々的にアピールする法律事務所のウェブサイトをよく見かけます。しかし,現実の事件には,1件1件それぞれ固有の特徴があり,最良の結果を得るために何を優先するかも当然に異なります

また,同じ「1件」でも,依頼を受けて数日で終結する事件から,判決まで何年もかけて争い続けてようやく成果をあげるという事件もあります。ですから,弁護士であれば,インターネット上で「執行猶予が〇件」などという数字だけの「実績」を強調することにそれほど意味があるとは考えません。そのような数字だけの実績であれば,流れ作業のように事件を次々処理していくだけでも十分に達成できてしまうからです。

自分や自分の大切な人が,突然逮捕された,刑事裁判にかけられた,そのような場合に,少しでも早く弁護士を頼みたいと考えるのはごく当然のことです。そして,少しでも早く刑事弁護人を選任すべきであるということも間違いありません。しかし,気を付けるべきは「早ければ誰でも良い」ではないということです。インターネットは非常に便利であり,弁護士をすぐに見つけることはとても簡単な時代になりました。しかし,インターネットだけを頼りにして「すぐに見つかる」弁護士を刑事弁護人として選ぶことは危険です。例えば,以下のような特徴がある法律事務所の場合は慎重に検討して下さい。

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事務所に所属する弁護士の構成が,極端に,新人あるいは勤務年数の浅い弁護士ばかりに偏っている。

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多数の「支店」を開設しており,新人や経験年数の浅い弁護士のみを配属させている。

弁護士の能力,特に刑事弁護人としての実力は,ある程度の事件数や多様な事件の種類を担当し,さらには逮捕前から裁判が終結するまでのいくつもの局面での弁護活動を経験していく中で,徐々に身に付いていくものです。もちろん,新人や若手の中にも,高い意欲と能力を備えた弁護士はいます。しかし,新人や若手の弁護士も,先輩弁護士からの専門的なアドバイスや共同で弁護活動を行う機会などを通して,成長していく過程が必要です。そして,多くの優れた刑事弁護人が,そのような過程を経て,現在真のプロフェッショナルとして,この国の刑事弁護の分野を支えています。

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接見回数に限度を設ける契約内容を採用している。

刑事弁護人の職務の中で最も重要な活動のひとつが接見です。刑事弁護人は,自らが必要であると判断すれば,何度でも接見に行くべきであると当然に考えます。その意味で,一定の着手金額を定めながら接見回数に限度を設け(たとえば,着手金○円,ただし接見3回まで),それを超える接見には追加の費用を依頼人に要求する契約内容は,刑事弁護人が本来担うべき責務と相反するものだと感じられます。

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「保釈保証金の〇パーセントを保釈獲得の報酬とする」という契約内容を採用している。

保釈(一定の金額の金銭を支払って釈放される制度)の際に裁判所に収める金銭を「保釈保証金」といいますが,保釈保証金の額に応じた割合で弁護士報酬を設定する法律事務所があります。ところが,保釈の場面での弁護人の役割は,保釈保証金を安くしてもらえるよう裁判官と交渉し,少しでも依頼人の金銭的負担を少なくすることです。保釈保証金の額に応じた割合で弁護士報酬を設定するとなると,弁護士としては保釈保証金が高いほうがたくさんの報酬をもらえるようになってしまうため,弁護士の利益と依頼人の利益が相反してしまいます。このような契約内容は「依頼人の利益に徹する」という刑事弁護人が本来担うべき責務に反します。

point.2

刑事事件に「強い」とは
どういうことか

刑事弁護の能力には,弁護士にも「ピンからキリまで」の差があるというのが,弁護士自身の偽らざる実感です。

インターネット上には,「逮捕に強い」「示談に強い」「性犯罪に強い」「迅速に動きます」と,様々な宣伝文句が並んでいます。しかし,逮捕された依頼人の弁護や,示談などはごく基本的な弁護人の役割です。また,特定の犯罪類型の弁護が得意であるということは,ほとんど考えられません。迅速に動くのは重要ですが,これも当たり前のことです。

ビジネスのための単なる宣伝文句ではなく,本当に刑事弁護に強い弁護士を探さなければなりません。刑事事件に強い弁護士とはどういう弁護士でしょうか。

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裁判員裁判に積極的に取り組む

今の裁判実務は,裁判員裁判を中心に回っているといっても過言ではありません。裁判の在り方,刑の決め方,刑事裁判におけるいろいろな議論が,裁判員裁判を実施する中で急激に進んでいます。裁判員裁判の実務を知らなければ,刑事裁判の最先端の議論についていくことはできません。裁判員裁判を経験していなければ,今の裁判実務を知らないのも同然です。裁判員裁判を知らずに,「刑事事件に強い」などということはとてもできません。

そして,裁判員裁判では特に,法廷でどのような尋問をするのか,どのような弁論をするのかといった「法廷技術」が重要になります。裁判員裁判に積極的に取り組んでいる弁護士は,法廷技術も向上するでしょう。裁判員裁判に積極的に取り組む弁護士は,そのような意味での能力の高さも期待できます。

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国選事件や困難事件に積極的に取り組む

我が国の国選弁護人の報酬は,残念ながら十分なものではありません。そのため,弁護士がもし単にお金儲けだけを考えたら,国選弁護に積極的に取り組もうとはしないでしょう。裏を返せば,積極的に国選事件に取り組む弁護士というのは,ビジネス,つまりお金のために刑事弁護をやっているわけではないといえるかもしれません。

国選弁護の中には弁護士にとって困難な事件もたくさんあります。その困難さも,弁護士報酬には反映されにくいものになっています。困難事件に取り組む弁護士は,ビジネスのためでないことはもちろん,困難な事件を通じて弁護技術をも磨いているはずです。

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弁護士会の研修等に積極的に参加する

弁護士は皆,日本弁護士連合会(日弁連)と,各都道府県にある単位会(たとえば,「東京弁護士会」「大阪弁護士会」など)に所属しています。そして,日弁連および各単位会は,刑事弁護に関する情報収集を行ったり,研修などを実施したりしています。

こういった研修などに参加することは,もちろんお金にはなりませんが,最新の刑事弁護に関する情報を得ることができたり,最新の弁護技術を学ぶことができる機会です。本当に刑事事件に強い弁護士であろうとするならば,こういった弁護士会の研修などを積極的に受講する努力を惜しんだりすることはないはずです。

当サイトには,ここに書いたような要素にあてはまる弁護士しか登録を認めていません。登録されている弁護士は皆,裁判員裁判や国選・困難事件に積極的に取り組むことのできる弁護士です。弁護士会の研修等も積極的に受講し,あるいは,自らが弁護士会内での研修等の講師を務め,日々,弁護技術の向上を図っています。もちろん,この項の冒頭に述べた刑事弁護士として当たり前の要素(示談や,迅速性など)は,当然に兼ね備えています。

point.3

刑事弁護人の選び方

これまで述べたことが「弁護士が刑事弁護人を選ぶ」ポイントとして,皆さんにお伝えしたいことです。既に説明したとおり,インターネットは便利ですが,そこに掲載された情報だけで判断することはお勧めできません。少なくとも,以下のことをしてみてください。

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弁護士に評価されている弁護士を探してみる

漫然とインターネットのサイトを眺めるのではなく,「弁護士に評価されている弁護士は誰か」という視点で情報を集めてみてください。それが「弁護士が刑事弁護人を選ぶ」ときの視点に近づく一つの方法になるはずです。弁護士が他の弁護士を直接評価している情報というのは,世の中にそれほど多くはないかもしれません。しかし,例えば,弁護士会などの刑事弁護をテーマにした研修で講師を務めている,新人若手向けの刑事弁護関係の著書を書いている,刑事弁護関係の論文を多く執筆しているといった情報は,客観的に確認できる一つの指標になるでしょう。

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直接会って質問する

直接会っていくつかの具体的な質問をしてみることで,その弁護士の能力とまではいかなくとも,刑事弁護への力の入れ方など,ある程度推測することはできるかもしれません。

例えば,①裁判員裁判に取り組んでいるか,②国選弁護事件に取り組んでいるか,といった質問をしてみてもよいでしょう(もちろん,より重要なのは刑事弁護活動の内容です)。

他にも,やや抽象的にはなってきますが,必要な事実関係を十分に聞いてくれるか,根拠を示した見通しを語ることができるか,リスクや問題点についても率直に説明してくれるかどうか,といった観点も重要です。

加えて,そのような話を,一般の方にもわかりやすい平易で明確な言葉で説明する能力を持っているかということも無視できないポイントです。

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そして比べる

その上で,可能であれば,いくつかの法律事務所や弁護士を比べてみると良いでしょう。また,選任した弁護士がどうしても信頼できないあるいは頼りないと感じた場合には,別の弁護士を改めて選任するということも選択肢としてはあります。もちろん,費用や弁護活動の継続性という点から考えれば,できるだけ早いタイミングで最後まで任せられる弁護士を見つけることが理想ですが,信頼できる弁護士を探すために,別の法律事務所や弁護士と比較してみることが良い結果をもたらすかもしれません。