弁護事件例

2017.05.07 【殺人】殺人

殺人事件の裁判員裁判で,責任能力が認められないとして心神喪失により無罪となった事例

無罪
裁判員
否認

事案の紹介

 依頼人が自宅内で実母を刃物で多数回刺して死なせてしまったという事例で,統合失調症の影響で行動を制御できない状態で犯行に及んだとされ,心神喪失により無罪となった事例

弁護活動

 依頼人は,長年にわたり統合失調症を患っており,入通院を繰り返している方でした。事件当時も通院中で,統合失調症の影響で,思考能力などはかなり低下している状態でした。ただ,普段の生活の中で,暴力的な傾向などはまったく見られない人物でした。
 一方で,起こした事件は,刃物を使って実母を多数回刺すという残虐なもので,普段の依頼人の行動とは結びつかないものでした。そのため,事件を起こしたことについて,統合失調症の非常に強い影響がうかがわれました。
 弁護活動のポイントとなったのは,依頼人の精神障害の症状とそれが事件に与えた影響をしっかりと把握し,裁判官・裁判員に適切に伝えることでした。
 具体的な活動としては,まず,検察側の精神科医とは別の精神科医に相談し,依頼人の病状や事件への影響について,意見をもらいました。これにより,依頼人の病状等をしっかりと把握する基礎を築くことができました。
 その上で,公判前整理手続の中で精神鑑定を請求し,これが裁判所に採用されました。そのため,検察側の精神科医の意見だけではなく,別の精神科医の意見も法廷で述べられることになりました。
 公判審理では,冒頭陳述,精神科医の証人尋問,最終弁論という手続を通じて,常に,依頼人の病状と事件への影響を念頭に置き,それをできるだけ分かりやすく裁判官・裁判員に伝えるよう努めました。特に,刑事事件の「責任能力」という難しい概念をどのようにして一般の裁判員の方々に理解してもらえるか,説明方法については,腐心しました。
 判決は,依頼人が,統合失調症の非常で行動を制御できない状態で犯行に及んだとするもので,心神喪失により無罪という結論でした。弁護人の主張を適切に理解してもらえた結果だと考えています。