弁護事件例

2016.06.17 【暴行・傷害】傷害致死

傷害致死罪で起訴された事件において無罪主張が排斥されたが、執行猶予判決となった事例

執行猶予
裁判員
否認
保釈

事案の紹介

 依頼人は、小さな店舗を経営する店主である。依頼人は、酒に酔った客に殴り掛かられた。それを抑えるために客の体を床に押さえつけ、なおもすごい力で暴れ続けていたため、客の体を抑えつけつつ、通行人を呼び、警察や救急車を呼んでもらった。警察官や救急隊が駆け付けると、抑えていた客はぐったりしており、その後亡くなってしまった。

弁護活動

 逮捕直後に、当番弁護士として依頼人に会いに行き、その後国選弁護人として事件を受任しました。
 依頼人の主張は、法律上の「正当防衛」にあたるように思われました。正当防衛は、相手からの攻撃から身を守るために、相当な手段で反撃することは許されるという制度です。取調べでは、捜査機関が、首を絞めたのではないか、反撃としてもやりすぎではないか、など、依頼人を追及していました。そのような追及に屈することのないよう、毎日接見を行い、依頼人を励ましました。
 その後依頼人は起訴され、裁判員裁判になりました。裁判員裁判では、依頼人が客を押さえつけた行為がやりすぎではないかどうかが争点になりました。検察官は、客を押さえつけたのがやりすぎだと主張したのに対し、弁護側は、やりすぎではないとの主張をしました。特に、弁護側は、亡くなったという結果にとらわれてはいけないことに重点を置き、裁判員を説得する戦略をとりました。つまり、正当防衛では、亡くなったという大きな結果が生じたかどうかではなく、相手の攻撃の大きさに対して、そこから身を守るために必要な行為だったのかどうかが問われます。そのことを、正しく裁判員に理解してもらえるように努めました。この戦略に基づき、直前まで店内にいた他の客や、通報した通行人を証人尋問し、亡くなった客が酔っぱらっていたことや、押さえつけていた依頼人の状況などを証言してもらいました。また、遺体を解剖した医師も尋問し、客が亡くなった機序が非常に稀なケースであることを証言してもらいました。
 判決では、弁護側の主張に一定の理解が示されたものの、やはり、警察が来るまでずっと抑え続けていたのは過剰(やりすぎ)であるとして、防衛ではあるが過剰なもの(「過剰防衛」といいます)として有罪となってしまいました。しかし、客からの攻撃が強度であったことや、そのための反撃は悪質なものではないと評価され、依頼人は懲役3年・執行猶予5年となりました。