刑事弁護ブログ

2021.09.14 刑事弁護コラム

被害者の心情意見陳述の限界

被害者は,法廷で,その心情に関する意見を陳述することができます。
 刑事訴訟法292条の2は,「裁判所は,被害者等又は当該被害者の法定代理人から,被害に関する心情その他の被告事件に関する意見の陳述の申出があるときは,公判期日において,その意見を陳述させるものとする。」と規定しています。
 「裁判所は,審理の状況その他の事情を考慮して,相当でないと認めるときは,意見の陳述に代え意見を記載した書面を提出させ,又は意見の陳述をさせないことができる。」とされていますが,通常,被害者から要望があれば,心情意見陳述をさせないことはありません。多くの場合,法が予定したとおり,適切な運用がなされています。

 しかし,心情意見陳述で何を言ってもよい,ということではありません。
 事実に争いのある事件で,心情の意見ではなく,公訴事実の存否に関する意見を述べたりすることは不相当です。そもそも心情意見陳述は,「犯罪事実の認定のための証拠とすることができない。」と規定されているからです。
 また,法廷で取調べられた証拠にではその存在が証明されていない,量刑上重要な事実の存在を心情意見陳述で主張することも相当だとは思われません。なぜなら,心情意見陳述に対する反対尋問は,刑事訴訟法上認められておらず,証拠にない事実が心情意見陳述において主張された場合,その後,弁護人は必要な反論を行うために証拠調べ請求等を行わなければならなくなり,審理計画にも大きな影響が及びますし,そもそも量刑上重要な事実を立証しようとするならば,証人尋問等によって立証すべきだからです。

 不相当な心情意見陳述がなされた場合,弁護人として異議を述べ,そのような不当な陳述を制限してもらう必要があり,これまで何回か心情意見陳述が制限された(実際に法廷で陳述することが許されない)事例もあります。

 遺族等が刑事訴訟法のルールに詳しくないことは当然ですが,検察官及び遺族等の代理人は,心情意見陳述する以上は,刑事訴訟法のルールについても適切に説明し,制限等されることにない法が許容している心情意見陳述を行うようアドバイスすることが求められます。
法律事務所シリウス 弁護士 菅 野  亮