刑事弁護ブログ

2020.07.22 刑事弁護コラム

専門的知識はどうやって習得していますか

刑事事件でも,医学,工学等の専門知識が必要となる場合があります。

 刑事事件では,証拠として,法医学者の解剖書,精神科医の鑑定書,画像解析を専門とする研究者の鑑定書,科学捜査研究所の技官の作成する微物・足跡・指紋・DNA型等の鑑定書,自動車工学の専門家の意見書などが請求されます。

 法医は,解剖を行い,その所見を書面にしますが,例えば,遺体の状況から,どのような死因が考えられるかという点について意見を記載します。問題は,その意見が法医によって違うことがあることです。例えばA医師は,この傷は,暴行が原因でかなりの力で殴りつけたものだ,という意見であるのに対し,B医師は,傷からそこまではいえず,自分で転んだとしても生じうる傷だ,などと意見が異なる場合もあり得ます。
 
 弁護士は,専門家が記載した鑑定書等の証拠を読み,関連する書籍や論文を読み込み,鑑定人や他の専門家に話を聞きに行くことをしています。
 また,平素から,弁護士会その他の団体が企画する研修会に出たり,学会等に参加することもあります。

 私自身は,刑法学会と司法精神医学会に所属し,研究者の最先端の議論を聞くこともありますし,日本弁護士連合会と司法精神医学会が定期的に開催している協議会(通常,事例検討を行っています。)にも参加して勉強しています。

 裁判では,一見科学的・専門的な証拠にみえて,実際は,普遍性のない単なる素人的意見にすぎないものが,鑑定書や専門家証言として証拠請求されることがあります。しかし,本来,科学的・専門的な証拠でないものを信頼して事実認定等することはえん罪等を生む原因になります。ジャンクサイエンスでないかどうかの見極めが重要です。

 また,専門家の意見がどの領域でどの程度尊重されるべきかという視点も重要です。例えば,精神科医は,精神障害に罹患しているか,精神症状の有無や事件に与えた影響については専門的知見を有するものの,法律判断である責任能力の判定について専門的知見があるわけではありません。

 科学的・専門的証拠が増えており,弁護士がこうした知識を理解しつつ,その専門領域を適切に見極め,正しい刑事裁判が実現できるようにすることが大切です。

法律事務所シリウス 弁護士 菅 野  亮