弁護士が遵守すべきルールとして、弁護士職務基本規程(基本規程)というものがあります。
この、基本規程第5条に「弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。」との定めがあることから、弁護士には「真実義務」が課せられていると考えられています。また、基本規程は第46条に「弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動に努める。」という定めがあり、弁護人には依頼者である被疑者・被告人の防御のために最善を尽くす「誠実義務」が課せられているとされます。そのため、ロースクールや法律家を目指す研修所などで、弁護士の「真実義務」と弁護人の「誠実義務」は、どのような関係に立つのか、あるいは、その両者が衝突する場合がないのか、ということをテーマにした講義が行われることがよくあります。
その際、刑事弁護人には、実体的な真実を明らかにするように協力する「積極的真実義務」までは無いが、実体的真実の発見を妨げる行為をしてはならない「消極的真実義務」はある、という説明がされることがあります。
その根拠のひとつとして、基本規程の第82条第1項に、「この規程は、弁護士の職務の多様性と個別性に鑑み、その自由と独立を不当に侵すことのないよう、実質的に解釈し適用しなければならない。第5条の解釈適用に当たって、刑事弁護においては、被疑者及び被告人の防御権並びに弁護人の弁護権を侵害することのないように留意しなければならない。」とあえて明記して、上記第5条の解釈の指針を示していることが挙げられます。
いずれにしても、弁護人が(裁判官や検察官も)、「実体的な真実」や「事件の真相」を知っているという安易な前提に立つことなく、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の大原則を守るために誠実義務を果たすという意識が重要であると考えます。
法律事務所シリウス
弁護士 虫本良和