現在不同意わいせつ罪(刑法176条)及び不同意性交等罪(刑法177条)は、単にわいせつ行為や性交時に被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」にあるというだけではなく、以下の各号該当事由またはそれに類する事由により、その状態になったこと(この状態にさせ、あるいは乗じたこと)が必要となります。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
これらの各号事由は、重畳的に適用されることがあります。例えば検察官により作成された起訴状の公訴事実において、「大量のアルコール飲料を飲んだ影響下にあったことに加え、性交等にされそうになるという予想と異なる事態に直面させて恐怖させたことにより」などと記載されることがあります。この場合は検察官は3号と6号が重畳的に適用されていると考えているわけです。ただし、3号事由のみ、あるいは6号事由のみだったとしても、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」にはあったとの主張である、とされる場合が多いと思われます。
このような、各号事由の重畳的な適用を弁護人は警戒すべきです。そもそも上記各号が定められたのは、どのような場合に「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」が生じうるか、類型を明らかにして、同罪名が適用される場合を明確にすると共に、認定のばらつきをなくすためにあります。しかし例えば検察官がある行為について、1号、2号、3号、4号、6号、7号の重畳適用を主張した場合、結局検察官がどのような原因によって「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」が招来されたと主張しているのか判然とせず、弁護人も裁判所も、どのような具体的事実が考慮要素となり、事実認定上の争点となるのかが分かりづらくなります。さらに、検察官が、ある行為につき、3号と5号といった、論理的には両立しえないように思える事由を重畳的に適用しようとする事例も見られます。
まだ法改正から間もないため、このような重畳的な適用について裁判所がどのような争点整理を行い、また事実認定を行っていくのか、運用は固まっていないといえます。今後の動向に注意を払う必要があります。
東京ディフェンダー法律事務所 赤木竜太郎