裁判で無罪の判決が出た場合、検察官が上訴(裁判に負けた側が上級の裁判所に対して行う不服の申立)することができることとされています。
しかし、無罪判決に対する検察官の上訴を認めることは、大いに問題があります。
憲法39条は「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。 又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。 」とされていますが、これは、被告人が二重に有罪の危険を負うことがないように定められています。すでに第一審で無罪になっているのに、検察官のセカンドチャンスを許すのは、この趣旨に抵触する可能性があると思います。また、無罪推定の原則のもとで、第一審の裁判員や裁判官が有罪に疑問が残るとしたのであれば、それは有罪に対する合理的な疑問そのものではないでしょうか。実際、諸外国では、無罪判決に対する検察官上訴を禁止している国がたくさんあります。
もっとも、わが国の判例は、検察官上訴を憲法39条に違反するものではないとしています。そのため、この判例が変更されるか、あるいは国会の立法で検察官上訴を禁止する法改正が行われないと、検察官上訴の禁止は実現しません。
現状を前提とすれば、無罪判決を獲得しても全く気が抜けず、検察官の上訴をも防いで勝利を目指さなくてはなりません(なお、運用としては、検察官は無罪判決が出ても控訴をしないことがそれなりにあります)。
法律事務所創衛 弁護士山本衛