刑事弁護ブログ

2025.07.07 刑事弁護コラム

直接証拠、状況証拠とは

刑事裁判についての報道をみていると、「直接証拠はなく、検察官は状況証拠によって立証を試みている」などといわれることがあります。

ここで直接証拠や、状況証拠とはどういう意味でしょうか。
結論からいうと、直接証拠とは、その証拠が信用できれば直ちに結論が決まるという性質の証拠で、状況証拠とはその証拠が信用できたとしても認められる事実(間接事実)から結論までは、一定の推論(推認)あるいは他の証拠が必要となるような証拠のことを指します。

例えば、ある家に侵入して窃盗をしたという罪に問われている被告人がいたとします。
このときもし仮に家人がいて、その一部始終を目撃されていたとします。
家人が法廷に出てきて、「犯人は私が見たこの被告人です。被告人は家の中から財布を盗んでいきました」と証言したとします。この家人の証言を信用することができるという結論になれば、被告人が犯人であることが認められることになります。従って、この家人の証言が直接証拠ということになります。

次に、同様にある家に侵入して窃盗をしたという罪に問われた被告人を想定します。ただし今度は無人の家に侵入したため、直接のも目撃者はいません。しかし検察官は、家の中の棚から被告人の指紋が検出された、という証拠を提出しています。
このとき家の中にあった被告人の指紋が、状況証拠です。
被告人が犯人だから犯行のときに家の指紋が付着した、と考えることができます。しかし、もし、被告人が例えば事件が起きたとされる日以外に被害宅に来たことがある(例えば家人と知り合いであるなど)という事実があるとすれば、指紋があったとしても、犯人だから指紋があるのか、それ以前についたのかは指紋だけからは判別できません。
そうすると、家の中から被告人の指紋が検出されたという事実(間接事実)だけでは結論が出ません。指紋がつく機会は他にあったのかどうか、あるいは他に被告人が犯人であることを裏付ける証拠があるか、などの他の事実や証拠を検討しなければ、結論が出せないのです。

実際の刑事裁判では、直接証拠だけ、状況証拠だけの事件もあれば、両方ある事件もあります。
どちらが優れているというわけではありません。
直接証拠といっても、ある人の話が真実かどうかを見抜くのは簡単ではありません。逆に状況証拠のみから結論を導く場合には、いくつもの推論を重ねる必要があり、誤りが混入する危険も高くなります。
最高裁判所は、次のような判例を出しています(最高裁判決平成22年4月27日)。

「刑事裁判における有罪の認定に当たっては,合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要であるところ,情況証拠によって事実認定をすべき場合であっても,直接証拠によって事実認定をする場合と比べて立証の程度に差があるわけではないが(最高裁平成19年(あ)第398号同年10月16日第一小法廷決定・刑集61巻7号677頁参照),直接証拠がないのであるから,情況証拠によって認められる間接事実中に,- 6被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要するものというべきである。」

推論という過程には、個人の価値観や考え方によってばらつきが生じることは避けられません。犯人ではないのに犯人であると間違って認定することは絶対にあってはならない刑事裁判においては、裁く人の考え方で結論に差が出てはいけません。
そこで、最高裁は、上記のような判示をして、間違いを起こさないようにしているのです。

東京ディフェンダー法律事務所 坂根真也