刑事弁護ブログ

2023.10.11 刑事弁護コラム

保釈に関する新たな制度(実刑判決後の保釈要件)

令和5年5月に成立した刑事訴訟法等の一部を改正する法律により、保釈に関する新たな制度が創設されました。

改正されたポイントは多岐にわたりますが、ここでは、「拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告後における裁量保釈の要件の明確化」の説明をします。

これまで、刑事訴訟法には、第1審で実刑判決を受けた場合、その後の保釈に関する特別な規定はありませんでした。

新法では、「拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があった後は、第90条の規定による保釈を許すには、同条に規定する不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合でなければならないものとし、ただし、保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに相当な理由があるときは、この限りでないものとする」と規定されました。

このように規定されると、これまで実刑判決後、控訴審に向けて保釈が許可されていた保釈実務に萎縮効果がもたらさせるおそれがあります。

法制審議会(逃亡防止部会)において、この点を危惧し、委員として参加していた私から当局に対して、この改正は、「法の要件を明確にすることであり、立法によって裁量保釈が認められる場合を限定しようとするものではないと理解していいか」と訪ねたところ、当局から、この改正は、「あくまで禁錮以上の実刑判決後の裁量保釈の判断の在り方を条文上明確にするものでありまして、現行法の下で認められるべき裁量保釈の範囲を殊更に限定しようとするものではない」との回答がありました(法制審刑事法・逃亡防止関係部会・14回)。

もともと、実刑判決後に、再度、保釈を得ることは、簡単なことではありませんが、この改正がなされた後も、従来どおり、裁量保釈が認められるべき事情を説得的に示し、裁判官を説得していく必要があります。特に、否認事件において、勾留されたままでは、被告人の社会生活等が著しく限定され、裁判を戦い抜くことは困難です。人質司法を打破するためにも、個別事件における弁護人の活動が重要です。

上記に関する新法の施行時期ですが、公布日(令和5年5月17日)から20日経過後に施行されることになります。

 

法律事務所シリウス
弁護士 菅 野 亮