責任能力が問題となるのは、いわゆる精神疾患があると疑われる事例だけではありません。犯行時に被疑者・被告人が酩酊していて、そのせいで異常な行動をしてしまったような事例で、飲酒酩酊により被告人が心神耗弱または心神耗弱の状態にあったとの疑いが生じ、裁判で争われる事例があります。
飲酒酩酊を理由に責任能力がないか、減弱しているとの主張には、100年以上の古い歴史があります。スイスの精神医学者であるH・ビンダーによる研究が、この分野では特に有名です。ビンダーの死後も、その著作等で提唱された考え方が支配的であり、今も司法精神科医は、好む好まないに関わらず、ビンダーの考え方をある程度下敷きにした上で、飲酒酩酊と犯行との関係を検討しています。
ビンダーは酩酊の種類を3種類の分類しました。異常酩酊、複雑酩酊、単純酩酊です。単純酩酊とは、通常の酔った状態を指しますが、一般的な感覚よりも単純酩酊に該当する範囲は広く、例えば普段はおとなしい人が酔っ払って暴言をはいた、暴力をふるった、という程度では単純酩酊に分類されることが多いと思われます。複雑酩酊とは、酩酊時の行動が、その人物の平素の行動とは完全に異質なものとなっているような事案です。この場合、平素の人格をどのように考えるかが問題となり、人によっては、人格を介した判断を経由することなく、原始機構が活性化したような行動を取っていると認められる場合にはじめて、人格と異質な行動がとられたと判断すべきだと考えます。
異常酩酊は複雑酩酊や単純酩酊とは異質なものとされており、敢えて大まかに説明すると、社会通念からみておよそ正常だと思えないような行動をとっている場合にはじめて認められます。例えばビンダーにおいては、戦争において兵士が突然上官の前で理由なく持ち場を離れたり、銃弾が飛び交う戦場に出ていくような場合を挙げています。
酩酊した被疑者被告人が犯罪をする事例は少なくありませんが、責任能力に関する主張を行うのであれば、飲酒酩酊に関する過去の研究成果を精査し、それを踏まえた主張立証をする必要があります。
東京ディフェンダー法律事務所 赤木竜太郎