薬物を摂取させる方法による毒殺が疑われる事例では、本当に検察官が主張するような分量の薬物を飲ませることが可能だったのか、が問われることがあります。その際に弁護人が、薬物を混入させた飲料の「苦味」を客観的な数値で測定する鑑定を行い、それを証拠として提出することで、「ここまで苦味の強い飲料を、気づかれないように被害者に飲ませることは無理であり、検察官による毒殺の主張は現実的でない」との主張をすることがあります。
ある事例では、検察官は、致死量に達するジフェンヒドラミンを摂取させて被害者を死亡させたと主張していました。そして被告人が、ジフェンヒドラミンを含有するある市販薬Aを大量に購入していたと主張していました。
弁護人は、致死量にいたるような量のAを、飲料に混ぜて飲ませようとしても、非常に強い苦味があって、本来の飲料の味から激変することから、これを被害者に気づかれずに、また抵抗されることなく全量飲ませることは事実上不可能ではないかと考えました。そして、味覚を測定するセンサーを開発している研究機関と相談し、Aを混ぜた飲料の苦味を測定することにしました。
味覚を測定するセンサーは、食品の新開発等にも用いられている、科学的原理に立脚した信頼性のあるものです。そのセンサーで測定したことにより、Aを相当量混入した飲料は、致死量に達しなくとも、かなり強い苦味があることが客観的数値と共に判明しました。そして元々苦味のあるコーヒーなどに混ぜても、そのA由来の苦味が、コーヒー本来の苦味の何倍もあることから、本来のコーヒーの味とかけ離れた味になることも、やはり客観的数値に基づいて言えることがわかりました。
このような結果が出たとしても、裁判所が「相当苦かったとしても、例えば「苦いが体に良いものだ」などと偽って、被害者に飲ませることは不可能ではない」などと、強引な認定をしてしまう可能性はあります。もっとも事案によっては有効な立証になるとも考えられますから、このような鑑定はもっと広く活用されるべきであると考えます。
東京ディフェンダー法律事務所 赤木竜太郎