刑事弁護ブログ

2025.10.20 刑事弁護コラム

被害者等の情報の秘匿に関する制度

2023年(令和5年)刑訴法改正(2024年2月15日施行)により、被害者等の個人特定事項の秘匿に関する規定が、刑事手続き全般に拡大されました(刑訴法201条の2、207条の2、271条の2、271条の3、271条の6等)。

秘匿措置の対象(要件)となるのは、以下の事件の場合とされています。

① 性犯罪事件(刑法、児童福祉法、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律)の被害者

② 個人特定事項が被疑者・被告人に知られることにより、名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれのほか、本人や親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがある事件の被害者

③ ①②のほか、個人特定事項が被疑者・被告人に知られることにより、本人の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれのほか、本人や親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがある事件の被害者以外の者

秘匿措置の具体的な方法としては、例えば、被疑者・被告人に対して書面(逮捕状、勾留状、起訴状等)を呈示する場合に、被害者等の個人特定事項の記載のない抄本に代えることや、起訴後の証拠の閲覧・謄写に際して、被害者等の氏名や住居等に代わる呼称や連絡先を知らせることなどが、一定の要件を満たせば認められることになっています。

この点、刑事事件の中には、被害者等のプライバシー等に配慮する必要があるケースが少なからず存在することは確かです。一方で、被疑者・被告人の立場となった場合には、自らの防御権を尽くすために、被害を訴える相手がどこの誰であるか或いは事件や自分との利害関係の有無等を確認する必要性が認められることも多くあります。また、特に弁護士が少ない地域では、被害者等の氏名が判明しないと、弁護を依頼しようとする弁護士と被害者等との間の利益相反がないかを確認することができず、速やかに弁護人の依頼ができなくなるという点も無視できません。

そのため、刑事訴訟法は、秘匿措置に関する各種の規定の中で、被疑者・被告人の「防御に実質的な不利益を生じるおそれがある場合」には、当該秘匿措置が認められない或いは措置の変更や取消ができるというルールを設けて、被告人の防御権や弁護人依頼権を害さないよう、これらの措置が実施されることを想定しています。

法律事務所シリウス 弁護士 虫本良和